暁星小学校 校長先生との対談(1)

暁星小学校は、キリスト教の男子校で、規律正しい伝統校、進学校として広く知られています。鍛錬、切磋琢磨といったイメージの強い学校ですが、その教育の実際を吉川直嗣校長先生にうかがってまいりました。実は、吉川先生とは、私の息子が在学中に担任を受け持っていただいたご縁がございます。その後、息子の学年は、その過半数が現役で医学部に進学しました。医学部現役合格率の高さも暁星の魅力のひとつです。ちなみに、2019年の医学部医学科現役合格率は、堂々の全国第一位です(インターエデュ調べ)。

今回の面談趣旨ですが、暁星の保護者は教育への意識が非常に高く、レベルの高い進学校ということもあり、勉強勉強、厳しそうというイメージがあります。しかし、息子が卒業し、社会人になった後も友人たちとの交流が続き、それが皆一様にさわやかで、表情が引き締まり、常に向上心を持って社会で役割を果たし、そして礼儀正しい。そんな彼らを見るにつけ、暁星の小学校教育に改めて強く関心を持ったのです。今回お話をうかがい、切磋琢磨だけではなく、その中から生まれる仲間との絆が、暁星教育を大きく支えていると再認識いたしました。では、以下、吉川校長先生のお話をお伝えしてまいります。


*キリスト教学校について
「関東圏内に20数校のカトリック小学校がありますが、男子校としては本校だけです。男子だからこそ、宗教が大切であると考えています。私たちはキリスト教の教えに基づいた教育をしているわけですが、その「基づいたキリスト教の教え」とは何かと申しますと、私たちは一人ひとりが神様から「よし」とされている存在であるということです。これは創世記の初め、天地創造のところです。神様がすべてのものをお創りになり、それをご覧になって「よし」とされました。私たち人間は最後に創られましたが、その一人ひとりが神様から「よし」とされている、認められている存在であるということが大前提です。それは、何かよいことをしたから認められる、逆に悪いことをしたらから認められないということではありません。どんなときでも神様はあなたを認め、惜しみなく恵みを与えてくださっている。そういうことを実感できるような教育を目指しています。神に愛されている、そして、その受けた愛を周りに広め分かち合い、社会に貢献する大人に育っていってほしいという思いで、私たちは教育活動を行っています。」

*男子校であることについて
「切磋琢磨、競争もあります。鍛錬も暁星のキーワードです。男子は競争が好きという面がありますが、それは他人を蹴落とす競争ではなく、目標に向かって一緒に頑張るということです。暁星はグループ活動の多い学校ですが、それはみんなでハードルを超える体験をするためです。そのために、ハードルは高めに設定しています。一緒に乗り越えた仲間だからこそ、一生続く本物の絆が育っていきます。」

「運動会の徒競走も、1位、2位、3位は順位がつくために並びますが、4位以下は「はい、じゃ自分の席戻って」とやります。そのあたりは容赦がありません。順位をつけない方がいいのではないかという議論もあるのかもしれませんが、でも、彼らが大人になっていく中で、順位がつかないということはありません。中学生、高校生、大学受験になれば、当然そういったものでもまれていかなくてはなりません。もちろん、だからといって、周りを蹴落としてというような心ではなく、競い合っていくことでお互いを認め合うようになると考えています。」

「サッカーが好き、野球が好き、鉄道が大好き、昆虫博士など、いろいろな子どもがいます。それぞれ分野は違っても、一度スイッチが入るとまっしぐらにのめり込んでしまう。でも、みんなそうなので、お互いに分かり合える、認め合えるといったところがあります。男子校の魅力を一言で表現すると、「オタクが安心して過ごせる場所」だと私は言っています。女の子が混じると「キモイ」ということになってしまいますからね。そういう意味で、飾らずに過ごすことができる、これも男子校の魅力であると思います。」

*人の役に立ちたい、助けたいという精神
「阪神淡路大震災のとき、中高生で学校をサボってボランティアに出掛けた生徒がいました。学校には具合が悪いとか言ってね。ほめられたことばかりではないのですが、そこまでしてでも誰かを助けたい、人の役に立ちたいという気持ちを持っている。暁星の子どもはそういうところがあります。そのためには、まず自分の力をつけなくてはなりません。医者になる子どもが多いのも、人を助けたい、役に立ちたいという気持ちからなのだと思います。」

*卒業生の評価について
「以前、熱心に暁星を志望してくださる方がいらっしゃいました。慈恵だったか東医だったか、暁星の卒業生が多い職場の方で、同僚の暁星の卒業生を見て、自己犠牲の精神があり、進んでみんなのために働くスピリットを持っていると感じられたそうです。ほかの卒業生もそうだったのでしょう、それは暁星の小中高で養われたものだとお考えになり、ご自分の子どもも暁星に入れたいと志望してくださいました。卒業生の姿を見て入学させたいと思っていただける、これは嬉しいことです。」

「とくに人柄、温かさ、穏やかさ、あるいは積極的に人の手助けをしたり、周りの人たちを引っ張っていくとか、そういう評価をいただく卒業生を多く聞いています。聞くたびに私も嬉しいのですが、その根本がどこにあるかというと、小学校の段階での教育が大きいと思います。まさに基礎基本を身につける時期でもあり、精神的な意味で言えば、まさに暁星のスピリットを吹き込む、それが小学校の役割です。」

*願書には保護者の最終学歴や職業を書く欄もありませんが、医師のご家庭が多いのはそういう理由もあるのですね。
「ひとつは卒業生のおかげでしょう。自分の同僚の暁星OBを見て、暁星小学校に興味を持ったと言ってくださる方が多いということです。そしてもう一つは、出口である高校の医学部合格率の高さもあると思います。」

「子どもたちが何か人の役に立ちたいとか、人の手助けをしたいとか、その具体的な形で実現できる道というのが医者なのかなと感じます。自分が何か人に役立てるような道を歩くためにはどうしたらいいのだろうと考えたときに、医学の道という雰囲気になりやすい環境が暁星にはあります。それは別に小学生に限ったことではなく、中学、高校に上がってもそうです。それがいわゆる精神的な部分で、自分たちが受けた愛を周りに広げていくという、その具体的な方策の一つが医師という選択になるのでしょう。」

2021年05月28日