「勉強しているのに成績が上がらない」~その勉強法、間違っています~ 国語篇

例年になく、夏休みらしくない夏休みが終わりました。昨年までとは全く違うカリキュラムや形態で夏期講習を行った塾も多かったでしょう。何かと落ち着かない情勢の中でも、受験を控えたお子様たちは一生懸命に学習に取り組んでいることと思います。その一生懸命は成績アップにつながっていますか。「頑張っているのに点数につながらない」とお悩みのお子様や保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。


中でも国語は、成績を上げるのが難しい教科と言われています。国語が苦手な子は、何でできないのか、何をどうしたらできるようになるのかが全く分からず、努力が報われない、ということが多いものです。その反面、全くと言ってもいいほど国語の学習をしなくてもトップクラスの高得点をとる子も多くいます。そのような子に、努力した子が追い付けないことが多いのも事実です。国語ができるようにならないのは、多くの場合、講師が「正答ありき」の解説をし、「だからこの選択肢が正しいよね」と説得にかかるからです。子どもは、講師の解説を聞けば「確かにそうだな」とは思うけれど、自分ではその答えを導き出すことができないのです。これでは正しく学習しているとは言えません。


しかし、学習の仕方次第で国語の成績は必ず上がります。ただし、難関校の入試に対応できるほどの実力は、一朝一夕につくものではありません。小手先のテクニックで対応しきれるほど中学入試は甘くない、ということです。「本物の国語力」をつけるための学習を正しくしていますか。お子様は、点数につながらない間違った勉強をしていませんか。今回は、前回の「算数篇」に続いて「国語篇」をお送りします。


(1) 読解問題の成績を上げるために読書をする

子どもが国語の読解問題が苦手、というと、「読書の習慣がないことが原因だ」と言われます。また、読解問題が得意な子は「読書量が多い」とか「読んでいる本が違う」というお話もよく聞きます。お子様の年齢を問わず、「読書」と「読解力」の関係については、保護者の方から大変よく受ける相談です。「本を読まないために読解問題ができない」のだから、「本を読ませれば読解問題ができるようになるのではないか」というものです。


結論から言うと、読書は読解問題を得意にするために必要ではあるけれど、読書をしたらしただけ読解問題が得意になるということはありません。ただし、読解問題が得意なお子様には、必ず読書の習慣があります。


まず、読書は読解問題を得意にするためのどのような効果があるのでしょう。読書することのメリットは、「世界を広げる」ということです。本の登場人物が本の中でした経験を、読者も疑似体験をすることができるのです。例えば、「親友が遠い土地に引っ越してしまう」という物語を読むとします。すると、親友と離れ離れになった経験がない人も、その状況を間接的に経験することができます。そうすれば、そういう経験をすると人はどのように感じるのか、どのように行動するものなのか、といったことを知ることができるのです。これは読解問題を解く上で重要なポイントとなります。
次に、どのような本を読めば良いのでしょう。最近では、インターネットで検索すると、「入試に頻出の作家」などという記事を見つけることができます。「是非そのような本を読ませたい」という保護者の声もよく聞きます。「先生のお勧めの本を教えてください」というリクエストも頻繁に受けます。そのようなとき、私は「お子様の好きな物を読ませてあげてください。ギャグ漫画でも構いません」と申し上げています。前述したように、読書の効用は「世界を広げる」ことにあります。ですから、お子様が喜んでその本の世界に入っていき、実世界ではできないことを疑似体験することが最も重要なのです。


最後に、読書の経験を読解問題の点数につなげるために、家庭でできる方法を紹介します。それは、お子様が読んでいる本を保護者の方も読んでみる、ということです。そして保護者の方の感想を伝えて、お子様の感想を聞いてみるのです。このとき、お子様の感想や考えを否定するようなことを言ってはいけません。「なるほど、そういう考え方もあるのね」「そんなふうに思うなんてあなたは優しいのね」など、お子様がまた感想を言ってみよう、次も何か本を読んでみよう、と思うようなコメントをしてあげてください。感想文を書く、などというとハードルが上がってなかなか習慣づけできませんが、口頭で言い合うのでしたら難しくないでしょう。読書習慣のないお子様に感想文まで書かせようとすると、余計に読書が億劫になりますから、お勧めしません。また、同じ理由で、難しい解釈を求めるような質問を投げかけるのも良くないでしょう。読書の後に感想を口に出してみることは、内容を整理し理解を深めることになりますし、家族であっても他人の感想を聞くことも「世界を広げる」ことにつながります。


(2) 漢字やことわざなどの知識は習ったものを順に覚えていく

私が生徒たちからよく聞く言葉に「まだ習っていない」というものがあります。なぜ「まだ習っていない」と言うのかというと、これを言えば大人は「だったらできなくても仕方ない」と引き下がってくれるからです。私は引き下がるべきではない、と思っていますし、引き下がりません。なぜなら、「算数篇」でお伝えしたように、中学入試には「出題範囲」というものが存在しないからです。「出題範囲」がないのですから、「習ったか習っていないか」は「できるかできないか」の判断基準にはならない、ということです。習っていなくても出題されている以上、できるようにならなくてはいけないのです。


国語ではこの最たるものが漢字です。中学受験を目指すのに、学校で習うまで漢字を勉強せずにいる、というお子様はいないでしょう。小学校で習う漢字、つまり中学入試で出される漢字は、夏休みが終わるまでには一通り読み書きの仕方を学習しているはずです。


では、ことわざや文学史などの知識分野ではどうでしょう。学校ではほとんど習いません。「中学受験準備のために通っている塾では習うからそのペースで学習すれば十分」と思っている保護者の方も多いのではないでしょうか。実際は、塾では一部しか扱いません。入試に出される可能性のあることわざや慣用句、四字熟語などは10や20ではありませんから、限られた時間の中で全てを扱うのは無理というものです。その代わり、知識問題対策をまとめたテキストがあるはずです。プリントで対応している塾もあるかもしれません。そのようの教材は、模擬試験や月例・週例テストなどの範囲として指定されないことも多いものです。講師からお子様たちに口頭で「夏休み中にやっておきなさい」と指示が出ていたり、保護者会で「1学期中に終わらせておいてください」などと言われたりしていませんか。これらは自分で学習計画を立てて、期限までに全て覚えておかなくてはならないものなのです。「そのうち習うはず」などと手をこまねいていては、勉強する機会のないまま入試を迎えることになってしまいます。お子様の言う「まだ習っていない」に納得してはいけないのです。


(3)文章を読んでいて出てきた分からない語句は辞書で調べる

私が指導する塾でも、辞書を片手に国語の文章を読む生徒をよく見かけます。また、読解問題の解説をしている途中で、「その言葉、どういう意味ですか」と質問を投げかけてくる生徒もいます。そのような生徒に、私は「分からない言葉は自分なりに意味を想像して読み進めてごらん」と声をかけます。つまり、辞書を引いたり知っている人に質問したりしないように、と指導しているのです。


辞書を引いて付箋を貼る、という学習が一世を風靡したことがありました。あの頃から、それまでにも増して保護者や先生は「辞書を引きなさい」と言うようになったように思います。子どもたちも素直にそれに従い、わからない言葉があればすぐに辞書を取り出す、わからないままにしない、という習慣がついています。良い習慣です。ただし、中学受験を考えるのであれば、遅くとも5年生になるまでにその習慣から卒業させてください。なぜ中学受験の準備に辞書引きが良くないのでしょうか。


一言で言えば、「入試に辞書は持ち込めないから」です。ここ数年、情報活用力を試すタイプの入試を実施する学校もありますが、ここでの話題は一般的な「国語」の入試に限定します。一般的な入試の「国語」テストでは、わからない言葉を辞書で調べながら読み進めることは許可されません。意味がわからない言葉が連発されたとしても、自分の力だけで処理していかなくてはならないのです。ですから、疑問を1つ1つ辞書で解消しながら文章を読む癖がついていると、辞書がないと問題が解けなくなる可能性があります。正確な意味が分からなかった語句のことが心配で、文章の内容が頭に入って来ない、などということも大袈裟でなく起こります。では、どのように学習したら良いのでしょうか。


まず、文章を読んでいてわからない語句にぶつかる、という状況に慣れることです。読解の勉強のために文章を読み書きするときは、わからない語句がいくつも出てきて当たり前、理解が難しそうな文章だから出題されているのだ、と知っておくことです。誰が読んでも一目瞭然の分かりやすい文章が入試に出題される道理がないのですから。


次に、わからない言葉を自分なりに推測する訓練をしておくことです。この訓練には2つのパターンがあります。1つ目は、使われている字から自分の言葉で大まかな意味を想像することです。例えば、「心血を注ぐ」という言葉です。「心と血を注ぐのだから、よほど頑張っている、ということかな」という推測をします。厳密な意味が分からなくても、読解問題で困ることはまずありません。2つ目はその言葉が使われている前後の文章から意味を推測することです。例えば、「獰猛」という言葉です。これはある文章で、「~オオカミは獰猛になり、何にでもかみつくようになるために、人をもよく襲いました」という記述に使われています。「獰猛」になると「何にでもかみつく」「人をもよく襲」うのですから、「狂暴」という言葉と近い意味なのではないか、と推測できるでしょう。単に「怖い動物の感じかな」でも構いません。これは、文章中で同じ内容を言い換えている部分を探す、という読解の基本的な解き方にもつながっています。


このように、辞書に頼らずに文章を読み、問題を全て解いた後でなら、辞書を引いて意味を調べても構いません。ただ、お子様にその気がないのに、わからない語句を全て調べさせる、というのは意味がありません。辞書を引く作業には時間がかかる上に、調べた言葉の厳密な意味を全て覚えている、などということは不可能だからです。自主性のない調べ学習はただの作業でしかなく、忙しい受験生にとっては時間の無駄なのです。


(4)記述問題で満点が取れるまで書き直して復習する

近年の中学入試は30年ほど前と比較して、難しくなっている、特に全ての科目で記述問題が増えている、と言われます。その中でも国語の記述問題は、字数の面でも内容の面でも高度なものです。一部の難関校に限らず、どんな学校でも50字程度の記述問題は出題されます。この記述問題への取り組み方についても相談を受けます。多いお悩み2つについて、対処法をご紹介します。


① 「記述問題に手を付けていない。解答欄に何も書けない」


国語が苦手、というお子様をお持ちの保護者の方からよく聞くお悩みです。
記述問題というと、自分の言葉で書かなくてはならない、と思いこんでいる人が多いのですが、そうではありません。実は、「書き抜き(抜き出し)」のように本文に書かれている通りに記述した方が減点の対象になりにくいため、高得点につながりやすくなるのです。ですから、「書き抜き」の練習から始めると良いでしょう。答えになりそうな本文の箇所を、指定された字数に合わせて、本文に書かれた通り書き写す、というものです。答えになりそうな本文の箇所の見つけ方は、今回の話題からはずれるので詳述しないことにします。


ただし、この抜き出しから始める練習は、一朝一夕に効果が表れるものではありません。ですから、志望校の過去問を解き始める時期になっても記述問題に手を付けられない、というお子様に対しては、もっと戦略的に臨む必要があります。まず、志望校の過去問を見てください。そして、発表されていれば、最低合格点を見てください。難関校でなければ、記述問題で1点も取れなくても十分合格点に達する、ということもよくあります。国語以外に得意科目がある、というのであれば、国語の記述問題で点数をとることにこだわる必要がないこともあります。無理に「書きなさい」と言い過ぎると、ただでさえ苦手な国語ですから、完全にやる気を失ってしまう可能性があります。選択問題や知識問題に焦点を絞って学習する、というのも1つの方法です。そんな逃げ腰で良いのか、と思われるかもしれません。しかし、国語に限らず、「捨て問」、つまり、自分には解けそうもないから手を付けることさえしない問題を見抜く、という技術も入試では必要なのです


② 「減点があり、満点が取れない」


これは、どちらかと言うと国語が得意、というお子様をお持ちの保護者の方からよく聞くお悩みです。国語は得意なのだから、減点なく満点をとってほしい、と思われるのももっともです。「記述問題で満点を取れるようにならないものか」という相談を受けると、私は「満点は目指さないでください」と申し上げます。配点の半分程度が取れているお子様にパーフェクトな答えを目指させるのが危険な理由は2つあります。


1つは、満点を取ることにこだわり過ぎると、かえって何を書いたら良いかわからなくなってしまうことです。「減点されるようなことを書いたら叱られるのではないか」と思うと、書くことに臆病になります。その結果、「何も書かずにおこう」という選択をすることにもなりかねません。ですから、記述問題では減点があっても部分点を得られていれば、まずは褒めてあげてください。


もう1つは、記述問題1問にこだわり過ぎると、制限時間内に全ての問題に手が回らなくなることです。限られた時間の中で書き直しを繰り返して先に進めなくなるのでは、本末転倒です。国語の読解問題は、時間さえあれば高得点を取ることが可能な科目です。算数のように、解き方が分からない、ということがまずないからです。逆に言えば、国語の読解問題は時間との戦い、ということになります。ですから、満点のプレッシャーをかけることは得策ではないのです。

6年生はそろそろ志望校の過去問に取り組み始めているでしょうから、この時期にはそぐわない内容もあったかもしれません。そのようにお感じになった方は、以前お送りしました、「過去問にいつ、どのくらい取り組むか」の記事も併せて是非お読みになってください。次回は「理科・社会篇」をお送りします。

2020年9月17日
GLE(Global Leader Education)中学受験・高校受験
担当 加藤 恵

2020年09月19日